ヒトラーを欺いた黄色い星とは ?
ヒトラーを欺いた黄色い星とは ? 平成30年8月
これは2017年のドイツ映画です。 原題はドイツ語で「DIE UNSICTBAREN」と言
います。
直訳すれば「見えない者」と言うところでしょうか。 ナチスが反ユダヤ人政策
を取り、これを大規模に実践したものですから、その統治地域や支配下に入った
ところでは、ユダヤ人が居なくなります。 従って、ユダヤ人は公式には不在、
乃至不存在と言う事になります。 此の作品でも、それを象徴するセリフが出て
きます。
でも、実は、約七千人ものユダヤ人が戦時下のベルリンに潜伏していたと申しま
す。これが、「見えない者」、即ち、「DIE UNSICTBAREN」の意味するところの
由です。もっとも、他の都市や地域ではどうか、有無や居たとしても概数まで分
かりません。
要は、あちこちに目立たないよう潜んで、暮らしていたから、通例は見当たら
なくなっていたと言う事のようです。 そして、その数約千五百人ほどまで、終
戦過ぎて生き延びたと言われます。想像するのも辛い、潜伏生活です。
1) さて、この映画は、この中から、四人の体験者を選び出し、その同意を得て
出演の了解を取り、ドキュメンタリータッチの物語にしています。 凄まじい体験
ですが、見ていて、何処かにほんのりとした安心感が在りますた。 何せ、此の
四人は生き残ったのですから。
斯くて、これら男女各二人の当事者は、年老いた現在の姿で出演し、インタビュー
を受けて居ました。 そして、そのまま画面は、六十余年前に戻り、各位が二十
歳前後の若い男女の姿となり、今度は各役者が登場したのです。 この入れ替
わりが時置かずして頻繁と起きるものですから、正直各シーンに附いて行くのが
大変でした。
2) 邦題の「黄色い星」の趣旨は、成る程と納得できました。 各自が分け有り
人物であることを、コートの裏側などに縫い付けて、外からは分からずに示して
おくものの様でした。 従って、当人の存在などは当局が実は把握していたケー
スもあるのです。例えば、機関銃の製法・秘密を知る青年など、その人自身の事
情があって、目立たずに生かされているのでした。
斯くて、邦題の「欺いた」という表現は必ずしも正確ではありませんが、身を隠
した潜伏であったことは、当たっているでしょう。
3) 何故、ナチスがユダヤ人絶滅まで図ったか、登場人物の一人が「どうして、
其処までしたのか。」と疑問を提示していたのが印象的でした。
因みに、ホロコーストと言われる、この大量殺戮は、総数約六百万人に及んだと
言われ、終戦後ヨーロッパのユダヤ人の人口は殆ど居なくなっていたと申します。
この事に関して、他の関係者の一人が、戦時中に「収容所に行くと、最後はガス
室に追いやられ、皆殺される。 既に大勢死んだ。」という噂話をしていたこと
がありました。 それは、これを受けての現在の場面での振り返りのコメントで
した。此のシーンを見て「矢張りそうか。話は伝わっていたのだと」と思い起こ
しました。
4)ナチスに疑問を持つ感じのドイツ国防軍の大佐など
戦時中ながら、立派な軍服姿の将校の誕生日を祝うパーティーの場面がありまし
た。すると、その人は国防軍の高級将校で、自身の言葉での明言はなかったもの
の、その仕草や言動から、ヒトラーやナチスに疑問を抱いていること事が汲み取
れました。 ドイツ国防軍のエリート将校の間では、成り上がり者ヒトラーに対
して批判的な空気が結構あったと言います。 これが、国防軍とは別組織である
ヒトラーー直属の親衛隊を造った理由でしょう。
因みに、この映画にしばしば現れる「国家秘密警察(ゲシュタポ)」は、親衛隊の
管轄下にあった組織の由です。
5) 映画は1942年から扱っていますが、1943年辺りから、しばしば空襲のシーン
が出てきました。
これは、日本と随分様相の違いを感じさせますね。 日本では、マリアナ諸島陥
落の1944年の後半以降、かなりしてから本土空襲が始まります。因みに最初の東
京大空襲は1945年3月10日でした。
然るに、ベルリンを含む対ドイツ空襲などは、もっと早かったようですね。
これは、英本土など、欧州内から、短中距離の大型爆撃機が、多量に使えたか
らの様です。つまり、其処では太平洋の遠距離を飛ぶような巨大なB29などは必要
なかったのです。
6) 実は潜伏を助けてくれたドイツ人
ナチスの反ユダヤ人政策が実行され始め、所謂ユダヤ人狩りが現実のものとなっ
て来ますと、移住、逃亡、追放などが多発してきました。 すると、ドイツ社会
が反ユダヤで完遂されていた分けでは無く、所謂強制収容所行きを嫌った人々が
結構いて、彼らは、諸々の口実や事情で潜伏し始め、それを多くのドイツ人が、
宿を提供するなど、匿い始めたのです。 密かに、支援の点と線が出来ました。
これは自身も捕まるかも知れず、危険極まりないことでしたから、驚くべき現象
が内在化していたことが知られるのです。
戦後七十年立つと、いろいろ出てきますね。
他方、ベニスの商人のシャイロックに代表される、ユダヤ人の悪いイメージが欧
米社会に根付いていますし、それに、もともと、イエス・キリストを裏切ったユ
ダへの固定観念があります。それは、欧米社会の根深いコンプレックスと言うべ
きものでしょう。 それは近代に至っても払拭されない、非欧米社会の者には身
をもっては分からない業 (ごう)の様なものでしょうか。 其処はキリスト教、
ユダヤ人とユダヤ教、人権思想などが絡まった世界が、どろどろと渦を巻いてい
るようにように思えます。
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